COLUMN

【イロハニアート】「サイゼリヤ」にある絵ってなに?
よく見る絵画について解説

皆さま、こんにちは。
ocean Dayでは、もっとアートを身近に感じていただきたく、
アートのイロハを知るのにピッタリなコラムをご紹介しています。

アートの様々な情報を発信しているWEBサイトであるイロハニアート。
今回はイロハニアートの、あの人気ファミリーレストランのアートについてのコラムをご紹介!
これを読めば、食事の時間にもアートを感じられるはずです。

「サイゼリヤ」にある絵ってなに?よく見る絵画についてイタリア在住者が解説

「サイゼリヤ」は、イタリア料理を中心に取り扱っている人気のファミリーレストラン。
サイゼリヤと言えば、店内の至るところに飾られている絵画が特徴的ですよね。
おいしい料理とともに、ちょっと贅沢なイタリアの雰囲気を感じることのできる空間です。
今回の記事では、そんなサイゼリヤの店内で見ることのできる絵画について、ローマの大学院で美術史を専攻している筆者が解説していきます。

ボッティチェリ『プリマヴェーラ』

Sandro Botticelli, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

描かれた背景と主題

サイゼリヤ内で最もよく見る作品のうちのひとつが、この『プリマヴェーラ』ではないでしょうか。
『プリマヴェーラ』とは、イタリア語で『春』という意味の言葉。

この作品は、15世紀に活躍したイタリア人画家のボッティチェリが手掛けたもので、ロレンツォ・デ・メディチの結婚祝いのために作成したものです。
『プリマヴェーラ』という主題はその名の通り、花が咲き誇り活気に満ちる『春』 を描いています。
これは結婚の贈り物ということもあり、肥沃・多産などの意味が込められていると解釈されています。

当時の「美しい女性」がわかる!?

絵に向かって左側には、3人の美しい女性が描かれていますね。この女性たちは『三美神』と呼ばれ、美しさを象徴しています。
『三美神』の主題は、時代ごとにどのような女性が美しいとされていたかを知る手掛かりにもなります。

このボッティチェリの『プリマヴェーラ』を観ると、当時はふくよかで健康的な体系の女性が、「美しい」と考えられていたということがわかりますね。

ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』

Sandro Botticelli, Public domain, via Wikimedia Commons

描かれた背景と主題

15世紀以降、アラビア文化から古代ギリシア・古代ローマの偉大な芸術や学問を「逆輸入」したことにより、西洋世界では失われていた古典を復興する運動が興りました。
これを「ルネッサンス」と呼び、ボッティチェリはそのルネッサンスの先駆けとなった画家の1人です。

『ヴィーナスの誕生』は、それまでの主流であった伝統的なキリスト教主題ではなく、ローマ神話をテーマにしている異教的な作品。
当時のヒューマニストと呼ばれる知識層にとっては、古典を主題にした作品を所有していることは一種のステータスでもありました。

破壊されず残った奇跡の作品!

ルネッサンス初期の画家であるボッティチェリの作品は、芸術作品をめぐる激動の時代の中で多くが失われてしまったと言われています。
ルネッサンス期が訪れる前の中世キリスト教世界では、芸術作品はイエス様の教えを伝達するために存在するものであり、画家個人の個性を出すことは重視されていませんでした。
代わりに、教皇や貴族をはじめとした貴族の依頼の通りに、宗教主題を取り扱う形で作品がつくられた時代だったのです。

当然、これらの伝統を重んじるキリスト教会はルネッサンスの潮流を危険視し、過去の宗教による芸術の独占化を取り戻そうとしました。
その結果、異教的(キリスト教以外)主題を扱った主題を破壊するという動きが活発になり、ボッティチェリの作品の多くが失われてしまったと言われます。

『ヴィーナスの誕生』は、異教的なテーマなだけでなく、メインの登場人物であるヴィーナスが裸で描かれているという中世にはご法度だった構成を持っていました。
この作品が現代まで破壊されずに残っていることは、奇跡に近いのかもしれませんね。

ラファエロ『システィーナの聖母』

Raphael, Public domain, via Wikimedia Commons

描かれた背景と主題

次の作品は、サイゼリヤの中でも最も多く目に入る作品かもしれません。
ボッティチェリ同様ルネッサンスを支えた重要な画家ラファエロの『システィーナの聖母』という作品です。

この作品でメインに描かれているのはその題名に含まれている通り、聖母です。
当時この作品が注目された最大の理由は、壁に立体的なカーテンを描きこみ、観る者に背後の奥行きを錯覚させるという絵画効果の革新性でした。

しかし、どういうわけかサイゼリヤでは聖母マリアの足元にいる2人の天使のみが切り取られて飾られています。。

天使の部分 Raphael, Public domain, via Wikimedia Commons

ルネッサンスにおける「子ども」の誕生

ルネッサンス以前、つまり中世西洋世界では、子どもは長らく「小さい大人」として描かれてきました。
顔の作りや体の等身は大人と変わらず、ただサイズだけを変えて描かれていたのです。

しかしここで描かれているラファエロの天使は、現実の赤ちゃんのようにふっくらとかわいらしく描かれています。
天使という重要な役目を負っているにもかかわらず、気だるいような自然体な姿勢で描かれていますね。

ここからも、ラファエロが作品の中に等身大の「人間」を描こうとしたことがわかります。
サイゼリヤのファミリー向けの親しみやすい雰囲気と、人間らしく生き生きとしたラファエルの天使は相性ばっちり。

ラファエロ『アテナイの学堂』

Raphael, Public domain, via Wikimedia Commons

描かれた背景と主題

ラファエロが残した最も有名な作品のうちのひとつが、この『アテナイの学堂』。
この作品は、教皇ユリウス2世の命によりヴァチカン宮殿の壁に描かれたフレスコ画で、古代の偉大な哲学者が一堂に会している様子を主題にしています。

例えば、中心にいる白髪で赤い服を着た男性はプラトン、その隣の青い服の男性はアリストテレスと言われています。
研究者の間では長らく、すべての登場人物が古代の哲学者として特定することができるとされてきましたが、決定的な記録がなく現在も議論が続いています。

古代の哲学者×同世代の芸術家?

『アテナイの学堂』には、古代哲学者の特定の他にも研究者を悩ませている要素があります。
それは、それぞれの登場人物がラファエロにとって同世代の芸術家をモデルに描かれているのではないか、という点。

先ほど触れた赤い服の男性は、レオナルド・ダ・ヴィンチをモデルにしていると言われています。
階段の下、床に座って台に肘をついている人物は、おそらくミケランジェロがモデルだろうと考えられています。

ラファエロはその短い人生の中で、同世代の偉大な芸術家から大きな影響を受けながら自身の絵画スタイルを確立したと言われています。
それらの芸術家を古代の哲学者に重ねることは、ラファエロにとっての尊敬の意の表明だったのでしょう。

フラ・アンジェリコ『受胎告知』

Fra Angelico, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

描かれた背景と主題

フラ・アンジェリコの『受胎告知』もサイゼリヤで最もよく目にする作品の1つです。
『受胎告知』とは、聖母マリアが処女でありながら神の子イエスを妊娠したことを大天使ガブリエルによって告げられるシーン。

15世紀中ごろに描かれたこの作品はまさしくルネッサンス初期を代表するもので、建物の奥行きや衣服の重量感を通じて立体的に空間を表現する意思を感じることができます。
大天使の羽の部分の細かく繊細な筆致は、ルネッサンス初期のフィレンツェ画家によくみられる特徴です。

修道院に描かれた『受胎告知』

フラ・アンジェリコはもともと修道院で装飾写本画家として修業していた修道士であり、宗教主題の作品を数多く残しました。
『受胎告知』という主題でいくつか作品を残したことから、識別するためにこの作品は『サンマルコの受胎告知』と呼ばれます。
これは、この作品がフィレンツェのサンマルコ修道院の壁に描かれたためです。

修道院では清貧の考えに基づく質素で穏やかな生活が求められていました。
この作品は修道士たちが生活するエリアの壁に描かれており、作品全体の装飾は最小限、落ち着いた重厚感のある雰囲気がただよっています。

祭壇画として描かれたフラ・アンジェリコのもう1つの『受胎告知』(現在プラド美術館所蔵)に比べると、装飾のシンプルさが際立ちます。

参考:フラ・アンジェリコ『プラドの受胎告知』 Public domain, via Wikimedia Commons

ドメニコ・ギルランダイオ『最後の晩餐』

Domenico Ghirlandaio, Public domain, via Wikimedia Commons

描かれた背景と主題

ドメニコ・ギルランダイオはルネッサンス期に活躍したイタリア人画家です。
『最後の晩餐』はドメニコ・ギルランダイオがフィレンツェに残したフレスコ画で、十二使徒との晩餐の最中にイエスがユダによる裏切りを示唆するシーン。

キリスト教の伝統にのっとり、ドメニコ・ギルランダイオは裏切り者であるユダを長机の手前側に配置しています。
背景に当たる窓の外には天国を想起させるような自然や動物たちが描かれており、静的で厳かな室内とのびのびとして屋外の対比が際立ちます。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』と比較

『最後の晩餐』の主題が描かれた作品で最も有名なものは、おそらくレオナルド・ダ・ヴィンチによるものでしょう。
このドメニコ・ギルランダイオの『最後の晩餐』を観た人の中には、ダ・ヴィンチの作品を思い出した人も多いかもしれません!

実際、いくつかの美術史家はレオナルド・ダ・ヴィンチがドメニコ・ギルランダイオの『最後の晩餐』を観たことがあるだろうと指摘しています。
伝統に従って荘厳な構図を用いたドメニコ・ギルランダイオに対し、ダ・ヴィンチはドラマチックで動きのある構図で作品を描きました。

参考:レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』 Public domain, via Wikimedia Commons

この2つの作品を比べてみると、ダ・ヴィンチの作品がいかに感情をあらわにしているかがわかりますね。

ウィリアム・ブグロー 『アモルとプシュケ』

William-Adolphe Bouguereau, Public domain, via Wikimedia Commons

描かれた背景と主題

ウィリアム・ブグローは、19世紀後期に活躍したフランス人画家です。
ルネッサンス期イタリアの絵画が多いサイゼリヤの作品の中で、この作品は少し時代が離れていますね。

『アモルとプシュケ』という主題には、ギリシア神話の登場人物が描かれています。
アモルはフランス語で「愛」という意味の言葉ですが、ギリシア神話の「エロス」(ローマ神話ではキューピッド)を意味しており、プシュケは人間の王女です。

この主題は、エロスとプシュケというギリシア神話の2人の登場人物が子どもの姿で抱擁してキスしているシーンを描いています。
実はこれは、神であるエロスと人間の王女プシュケの禁断の恋の始まりを優しく幻想的な雰囲気で表現した作品なんです。

エロスとプシュケの禁断の恋!?

18世紀半ばに新古典主義が興隆すると、古代神話を主題とした作品が再び人気を集めるようになりました。
『アモルとプシュケ』も、当時人気のあった主題の1つ。

人間の王女として生まれた美しいプシュケは男性から慕われていましたが、エロスの母・美の女神アフロディーテの怒りをかってしまいます。
アフロディーテは、息子エロスの矢の力でプシュケを醜い怪物と恋するように仕向けますが、エロスは誤ってその矢で自分を傷つけてしまいます。
結果的に、エロスとプシュケは禁断の恋に落ち、エロスがプシュケの顔をみないという条件のもとひそかに結婚に至ります。
しかし、エロスがプシュケの顔を見てしまったことから2人は離れ離れになり、エロスはプシュケを探し求めて世界中を彷徨うという物語です。


かわいらしい天使の絵の裏にこんな深い愛の物語が隠されているなんて、ちょっと驚きですね。サイゼリヤに飾られている作品は、どれも美術の歴史上重要なものばかり。
次にサイゼリヤに行った際には、おいしい料理だけでなくこれらの作品にもぜひ注目してみてください。

イロハニアートのコラムはここまで!

いかがでしたか?
知ってそうで知らないアートのあれこれは興味深いものばかりですね。

イロハニアートではほかにもアートに関する情報が盛りだくさんです。
ご興味のある方はイロハニアートをチェックして、アートをもっと自由にもっと楽しんでみてくださいね。

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